私が関わる経営者の方々の間で、圧倒的に話題を集めているのが採用です。
少子高齢化や時代の変化が激しくなって来たことなどから、急激に人材が足りなくなっています。
ニュースピックスのイノベーターズトークで、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授の服部さんの「採用は科学の時代」が連載されていました。
服部さんによると、その会社にとって、業績を出す優秀な人の条件(資質)を分析する必要があるということです。
すると、業績を出す人の意外な特徴が見えてくることが多くあるといいます。
いろいろ調べていくと、アメリカには科学的な採用に関する研究やデータがたくさんあることがわかりました。
面白いのは、このような分析を、アメリカではグーグルだけでなく、無名の多くの会社もやっていることです。
「なぜ、アメリカでは採用の科学的分析がそんなに進んでいるのか?」
と、アメリカにいる友人の研究者に聞くと、
「アメリカでは、リクルーター(採用担当者)が訴えられるリスクがあるから」
という、なんともストレートな答えが返ってきたそうです。
本日は、アメリカの最新の採用の科学を教えてくれる服部さんの「採用学」(新潮選書) をご紹介します。
採用に興味のある方だけではなく、興味のない方も読んでおいた方がいいです。
なぜなら、人手不足が今後も続く可能性が高いので、採用に関連するビジネスが伸びる可能性が高いからです。
例えば、どんなビジネスが伸びるかというと、人材教育ビジネスが間違いなく伸びます。
矢野経済研究所によると、企業研修の市場は現在、5,000億円で、年々増加しています。
服部 泰宏(はっとり やすひろ、1980年 – )は,日本の経営学者。国立大学法人滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師,准教授を経て, 現在,国立大学法人横浜国立大学大学院国際社会科学府・研究院准教授。神奈川県生まれ。 神戸大学大学院経営学研究科・金井壽宏の門下。日本企業における組織と個人の関わりあい(組織コミットメントや心理的契約)や,経営学的な知識の普及の研究等に従事。 2013年以降は,人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた研究,ASEAN地域における日本企業の人事管理に関する研究にも従事。 2010年に第26回組織学会高宮賞, 2014年に人材育成学会論文賞, 2016年に日本の人事部「HRアワード」書籍部門最優秀賞受賞。
出典:Wikipedia 服部泰宏
「採用学」(新潮選書)
目次
「採用学」の要約
「いま日本の採用活動は大きく変わろうとしている。そして、今後もますます大きく変わっていくだろう。
企業としては、そうした流れに絶対に乗り遅れてはならないわけだが、そのためには自社の採用を足元から見つめ直し、変革する必要がある。
そして幸運なことに、そうした変革のための考え方やガイドラインは、すでに科学的手法によって用意されている」出典:採用学
科学的手法で採用を見直す必要があるという服部さんの採用に関する知見をまとめたのが「採用学」だ。
「採用学」が収集した”純然たる力を図る数字”
マイケル・ルイスが『マネー・ボール』(中山宥・訳、早川書房、原題『Moneyball』)を書き上げ、さらに11年には映画化され、話題を呼んだ。
人気俳優のブラッド・ピットが主役を演じたこの映画は、第84回アカデミー賞では作品賞・主演男優賞など6部門でノミネートされた。
このストーリーをご存じない方のために、その背景も含めて簡単に紹介しておこう。
『マネーボール』である。このストーリーの主人公ビリー・ビーンがアスレチックスのゼネラル・マネジャー(GM)に就任したのは、メジャーリーグ各チームが、「金銭ゲーム」に四苦八苦していた時期であった。
そのかわり彼は、当時目覚ましい技術的進歩を遂げていたコンピュータによるデータ解析を重視したのである。
ハーバード大学経済学部卒のポール・デポデスタ(映画『マネーボール』では、なぜかイェール大学卒のピーター・ブランドに変わっている)をアナリストとして雇い、「そもそも優秀な選手」とはいったい何か、という点を徹底して分析していったのである。
分析の結果見えてきたのは、偶然の要素が絡まない、選手の純然たる力を測る数字だった。打者なら「出塁率」(とくに四球の多さ)、投手なら被長打率、奪三振、与四死球だった。
この「偶然の要素が絡まない、選手の純然たる力を測る数字」は企業で採用する人材が出す結果に直結する。
採用の要点
このストーリーを元に考えた上で、採用とは以下の2つの活動といえる。
- 企業の目標および経営戦略実現のため
- 組織や職場を活性化させるために、外部から新しい労働力を調達する
経営戦略を実現するためには職場の活性化が必須事項。活性化を図るために必要なのが採用基準の明確化だ。
日本企業の曖昧な採用基準
曖昧で不透明なのは、数値化できない期待。
最も多くの日本企業が選抜時に重視すると回答した項目の第1位は「コミュニケーション能力」(82・8%)であり、これは同調査において6年連続で第1位を占めている。
第2位は「主体性」(61・1%)、
第3位は「チャレンジ精神」(52・9%)、
以下、「協調性」(48・2%)、「誠実性」(40・3%)と続く。
どれも重要なことには変わらないのだが、採用の時点で企業の目的に沿った人材を見分けるには、目的を明確化させ、自社で行う人事育成に落とし込めるかどうかを判断しなければいけない。
人事育成について
人材育成とは……
企業が戦略目的達成のために必要なスキル、能力、コンピテンシー等を確定し、こうした能力などを人材が学習する過程を促進・支援することで、人的資源を計画的に供給するための活動
人材採用とは……
1企業の目標および経営戦略実現のため、
2組織や職場を活性化させるために、外部から新しい労働力を調達する活動
こうやって比べてみると、育成と採用という二つの活動は本来、企業の目標・経営戦略の実現に貢献できるような、優秀な人材のプールを確保するという、極めて類似した目的を共有していることが分かる。
変わる能力と変わりにくい能力
容易には変わらない能力であれば、それはほぼ間違いなく、採用段階で見なければならないポイントということになる。
これに対して、変わりやすい能力については、既に述べたように、自社内での育成機会と育成コストの多寡による。
第一印象、自己に対する認識などは、比較的簡単に変化するといいます。
逆に、知性、エネルギー、情熱、野心、創造性、粘り強さなどは、比較的変わりにくい能力だといいます。
つまり、知性、エネルギー、情熱、野心、創造性、粘り強さが最初からある人材を採用して、コミュニケーション能力(口頭、文章)やコーチング能力、第一印象、自己に対する認識などは、入社後、教育していけばいいのです。
企業の2つの採用力
私は、企業の採用力は、以下のように捉えることができると考えている。
企業・業界の具体的な指標は、以下の二つである。
1 業界の魅力度
所属する業界から喚起されるイメージが、収益性、成長性、社会的な意義、仕事内容の面白さ、収入や待遇などに関して、ポジティブなイメージを喚起するか。
2 企業の魅力度
独自の経営理念、戦略、製品・サービスを有していると認識されるかどうか、経営者のビジビリティが高いかどうか
「採用学」から見る採用のロジック
これらのいずれか、あるいは両方を備えた企業は、業界名や企業名を聞いた瞬間に、求職者のポジティブなイメージを喚起することができる。
さらに、 採用自体のブランドのもう一つは、その企業や業界の魅力ではなく、その企業が行っている採用のユニークさ、本質的な意味での「新しさ」を求職者が知り、そのユニークさや新しさゆえに、企業に惹かれて行くという側面がある。
自社が属する業界自体のイメージにポジティブなイメージを与え、企業としての取り組みに興味が湧く環境を作る。
一見回り道のように感じる自社戦略が結果的に、優秀な人材を自社に招くことができる。
こうした側面を利用し、「採用力」を高めることが自社の成果UPに結びつく最短ルートと言える。
「採用学」(新潮選書)
服部 泰宏 (著)
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